where the sidewalk ends

割と長文で泣き言をいうところ。

スケッチ

雨が降っていた。花冷えの雨。そこかしこを濡らし、風を洗い、僕の靴に沁みこみ、壁を汚し、道路に憂欝な水たまりを作った。たっぷりと水けを含んだ空気にあらゆる音は重く、べニアづくりのドアの軋みがいつもよりしかつめらしく響いた。

背後で冷蔵庫が耳に障るうなり声を上げ、不意に黙り込んだ。蛍光灯がちりちりと燃え、時計は誠実に僕を、この部屋を切り分け続けている。コーヒーの匂い。沸いた湯のくぐもった音。重たい窓を開け、世界を引き裂いていく車の音。跳ね飛ばされたしずくが、いっとき道路に無意味な痕跡を残して消えていく。安い菓子のバナナの香料、黙り込んだ本達。火をつける前の煙草の香り。カップが机に置かれる音。急須とふたが触れ合って立てる音。携帯電話を充電器に繋ぐと、痙攣したように身動ぎをし、力尽きた。冷えた毛布が少しずつあたたまっていく。すっかりおとなしくなったアールグレイに時折混じる生の水の匂い。

僕は確かに、朝が来るのを恐れていた。